2023 J1 第2節 鹿島vs川崎「事細かくプレーをレビューする編」

2023年2月27日月曜日

2022J1 ミクロレビュー 鹿島アントラーズ 川崎フロンターレ

t f B! P L

 


えー、書けと言われたので書きます。








とはいえ、せこさんが全体像や大局についてはものすごくわかりやすく書いてくださっています。




なので、私からはちょっと違う目線というか、元選手という事を活かした書き方が出来ればなあと思っています。


先に大局を整理する



この試合の大まかな展開に関して整理していけば、

・鹿島はぶっちゃけ撤退守備の方が上手く行っていた、ただし藤井のところで小さなズレが発生はしている。

・鹿島が先制してから顕著にCB放置守備を行うように。川崎は回答を部分的に見付けつつ大苦戦。

・川崎に退場者が出た瞬間、プレスかけたくなっちゃった鹿島、これ幸いとズレを生み出し間延びを利用して押し込みはじめると、大逆転まで繋げるチームとしての強さを見せる。


という感じ。細かい配置や意図に関してはせこさんに一任。



時間軸に沿って選手目線で色々



ということで、より細かい話とか選手目線で見たり考えたりしたことを時間軸に沿って書いていこうと思う。
もちろんその中で先に挙げたようなチーム単位の動きもあれば、数人のグループ単位の動き、個人個人の技術や判断等、いろんなところに触れていきたい。

それぞれに試合時間を記載するので、これを脇に置きながら見直してみるのも面白いのではなかろうか。



前半4分、鹿島先制


改めて見返すとまず鈴木にボールが入る前の状況があまり良くない。
家長は前に押し出そうとずれるが大外も鈴木もいる状況なので山根が二人を見なくちゃいけなくなっている。
この時点で鈴木にプレスがまともにかからないことがほぼ確定。

その状況で、中の守備はゾーン気味にぼかしながら行おうとしていた。
けど基本的な仕組みとして、ゾーンで守る場合は隙間に良いボールが来るとどうしようもないというデメリットがある。
個人的な感覚で言えば、山村がタイトに捕まえるしか無いと思う。鈴木が突破に来る場合はシミッチと山根でなんとかカバーする形の方が、まだ守れる可能性があったかなあという。

鹿島はこの前にも藤井の横幅確保から崩そうとしていたし、このシーンでも安西が横幅を確保したおかげで山根を足止め出来ているので両翼がおおきく構えるメリットが存分に出たシーンと言える。

とはいえ根本的には後ろが捕まえきれないのに家長を前に出してしまった時点でサイドはほぼ積みかなあ。
もちろん鈴木のキックの質、知念のシュートの上手さはめっちゃ凄いんだけれども。



前半12分、鹿島の守備


この段階で既に前プレを辞めているんだね、鹿島。
正確に言えば他の選手は辞めたそうな素振り、鈴木はシミッチのケアがベースだし。
その中でピトゥカの勇み足気味なプレスと藤井の謎ポジショニングから突破されるというシーン。
中盤はこのとき3CHぎみに並んでいるので、藤井が立っている位置はCHに任せて外を迎撃したい。
あと変に前に出てしまっているせいで単純に後ろから追わなくてはならないスタート位置になってしまった。
そのエラーを見逃さない脇坂もしっかりしてて偉いんだけど、守備で考えなくちゃいけないのは保持者からのパスコースだけじゃなくて1クッション挟んで通される可能性もケアしなくちゃダメだよね、という場面。
逆に攻撃側としては、一人絡んで角度を変えればスペース使えるじゃんという。

この時藤井がどうするべきだったかの正解が、16分に知念が見せたポジショニングの修正。

あとこの16分のシーンも含めて考えると、後ろのコースを限定できるチャンスがあれば前から行く、ただそれが全然出来ないぞ!みたいな動きに見える。
ピトゥカが頑張って自制している感じとか、知念が隙あらば山村にプレスする構えを見せたりとか、そこら辺の振る舞いから感じる。



前半17分、鹿島の川崎中盤に対する対応



ここら辺から川崎の中盤が降りてボールを引き出すようになるんだけど、これに対して鹿島は割りと明確に
「降りていく人は厳しめに付く」
という方針で対応しているのが見て取れる。
家長シミッチ大島あたりが入れ替わり立ち替わり落ちるんだけど、あくまでそこから前への展開はさせないぞという対応。押し戻させる感覚かな。
これは選手としては割りとやりやすいと思う。
基準が人だから判断がしやすいし、前進させなければOKという守備はローリスクでやりやすい。奪いに行って剥がされるとか無茶なファウルをするとか、そういったミスを減らせる。


前半20分32秒、大南のシミッチへのパス



個人的に重要だと思うパス。
結果的にはただ出して戻すだけなんだが、大事なのはシミッチが鈴木知念より若干高い位置に居ること。
ここまでの川崎は相手守備陣よりも降りて受けてたんだけど、このラインを超えるパスというのが必要で。
目の前で受けるときと比べて明らかに鈴木知念は絞る動きを見せている。
自分より後ろで相手がボールを受けると、守備として出来ることはほぼ無くなってしまう。後ろから追ってもファウルになりやすいし、塞ぐことも遅らせることも出来ない。
だからパスの受け手より低い選手は実質無効化できるという感覚を選手は持っているはず。僕はそうだった。
だから自分の後ろには簡単に通させない守備をする。
ボールの出し入れにおいて、この「ラインを超えているか」というのは一つ着目すると面白い、はず。

あと出したのが大南というのも大きい。彼が川崎でメンバーとして定着するにはこのパスに慣れること。
ぶっちゃけこのパスに必要なのは勇気と慣れであって、技術的には決して高難易度では無い。
シミッチがセーフティにプレーすればリスクが高いわけでもないし。
自分が持っている判断基準を川崎仕様に変える事が求められるわけで、良いチャレンジだと思う。


前半26分50秒、川崎の逆サイドへの展開


このシーンもやはり藤井のポジションがよく分からない。
知念が外を消しながらプレスに行った、この時点で知念は二人分のプレスをかけていることになる。
それに呼応して、鈴木はバックパスを消しながらボールへサンドしに向かう。
つまり数秒前の時点で藤井はそれを見て脇坂を捕まえに行くべきだった。
それかピトゥカを前に押し出すようにCBが対応するかだけどオープンな保持体制なので裏取りを考えるとそれも簡単では無い。

遠慮無く言うなら、藤井のポジショニングに目的が感じられない。


前半全体



基本的には上記した現象があまり変わらず続くような形。
AT付近になって直線的な縦パスをシミッチが入れ始めたが、そもそもシミッチがあれだけゆとりをもって前を向くシーンがあまりなかったのもある。
これは先にも書いた、中盤から降りる選手は厳しめにと言う鹿島の対応が功を奏している感じ。
あと橘田は内側気味でのプレーが多い役割なんだけどあまり刺さらず。
内外にあまり関係なく鹿島が同じ形で守る方針であるが故、人を増やしても効果的な働きにはならなかった。
あとこういう展開はシミッチ苦手だし、放置された中で変化を付けたいのはCBだよなあという。
ってもここら辺はせこさんが全部書いてるかも。

鹿島の横幅の活かし方は個人的に好き。藤井は横幅、そこからの裏取りも出来ていて攻撃時のタスクは好印象。

一番印象に残ったのはキレるシミッチに笑顔でべーってする鈴木でした。



46分、鹿島前プレ



鹿島が前プレを試みるも中盤と最終ラインの間を使われてシュートまで持って行かれる。
ここにCBを出せないとこの守備は出来ないよなあ。


50分、鹿島佐野のセカンドボール回収からロスト


このシーン、怖いんだけどヘディングじゃなくて胸トラップできる選手になってほしい。
確かに動きながらだしハイボールだからリスクヘッジでシンプルに弾きたい気持ちは超分かる、俺も出来なかった。
けどここで運否天賦の跳ね返しにするのか、マイボールにするチャレンジをするのかは大きな差になる。


52分、川崎の前プレ回避から前進


これがたぶん鹿島が再度前プレを諦めるきっかけっぽい。
インサイドに人を増やすのでは無く、SBはSBとして振る舞いながらその隙間を大島シミッチに使わせるイメージ。
中盤から落ちていく人はケア、といってもここまで鹿島の中盤がついて行くわけには行かず。
ここで橘田が上手いのが、SHのちょっと内側に立つという基本を守ること。
このちょっと内側に立つことで、自分より外側のSH、内側のCHと二択を選べるようになる。
これがラインギリギリまで開くとSHへのパスコースが消しやすくなるのよね。


55分、鹿島の前プレに対する橘田のサポート


上記したことを破った橘田。
この位置まで落ちて開かないと助けられない、というシーンでは迷わずポジションを取れるのが偉い。
その後に受けたシミッチ含めて、「ここは逃げ場を作らないとマズい」というシーンでしっかり逃げ場を作れるのが川崎の上手さ。


58分45秒、川崎橘田を中盤に置く意味



こういう狭いところで息が出来るというのが橘田を中盤に持ってきた意味だろう。
シミッチはフィジカルの優位性で中盤を制圧することに長ける一方、こういったコンパクトな相手に対して打開策を提示することは得意では無い。
であればボールを持つ前提で橘田を起用する、という意味が明確に見えたシーン。
選手のタイプと展開によって使い分ける意味の良いサンプル。



59分、川崎大南のカウンター阻止


彼の長所が存分に現れたシーン。
鈴木にボールが出た瞬間、明確に1vs2だが躊躇せず鈴木に寄せる。
寄せながら首を振って知念のポジショニングを確認、中へのパスコースをなるべく切りながらPAに入る前段階で勝負を仕掛ける。
この仕掛けるタイミングを失うとずるずるPKエリアまで持って行かれたり、パスコースを消しているつもりでも間合いが遠くて通されたりするのでベストタイミングだったと思う。
基本的に保持側に回りやすい川崎にとって、カウンター阻止というのはCBに欠かせない能力だ。



66分2秒、川崎山村からのパス



このパスが出る瞬間、鹿島は中盤を誰も管理できていないのがキツイ。
そこにさらっと通せるのが山村の偉いところだし、もうちょっと早めにトライしたかったところでもある。
パスが出る瞬間を静止画で見ると、家長と脇坂でSBに対して2vs1を作れているし、大島も選択肢として動けている。
ぶっちゃけこれだけ羽化してしまった時点で鹿島はかなりきつかったし、こういう細かいポジショニングを取るのが脇坂の仕事である。


71分16秒、川崎大南のロングパス



このシーン、大南は持ち出しからロングパスを選択した。
が、大島に注目すると運べ運べと手で指示しながら一瞬マークを外して近付いている。
たぶん大島としては、自分に当てて橘田に落としたかったのだろう、いわゆるレイオフと言われる形。
橘田もそれを感じて受ける動きをしている。つまり川崎にとってこの配置は失わずに舞わせるという共通理解なのだ。
これに適応するのは簡単では無い、怖いし。
けれどこれをやるから川崎なのだ、という動きが見られたシーンだと思う。



73分35秒、鹿島鈴木のゴールキックに対する助走



鈴木がピッチ外まで出て助走を付けて競る。
競り合いはその場で飛ぶより助走付けた方が勝てるんだけど、ここまで徹底して助走を付けるシーンはなかなか見られない。
それに対して垂直ジャンプで競り勝つ大南の強さも光る。


79分、川崎山村の退場



身も蓋もないことを言えば、仲間がファーストタッチする瞬間、体勢があまりにも悪すぎた。
DFの鉄則として
・重心を片足に乗せすぎない、片方にしか対応できなくなる
・どちらかを限定しながら誘導する
とかがあるんだけど、それが見事に破綻したシーンと言える。
仲間が触る瞬間の山村は完全に左足に体重が乗ってしまい、重心のコントロールを失っている。
しかも外側に誘導したかったところで内側に突破されてしまった。
誘導の意図は触る直前の体の向きからうかがい知れる。

厳しいことだが、最終ラインは1回でも鉄則が破綻すると結果に直結してしまうのだ。



87分、鹿島垣田のプレッシング



交代で入った垣田が猛プレッシングをかける、これはどうみても岩政監督のメッセージ。
なんだけど、前プレをかけるにはコンパクトさがちょっと足りないように見える。
このあと佐々木が前線に放るのだが、その時明らかに中盤とバックラインの間が大きめに空いている。
ここに対して後ろが押し上げるでも無く、中盤の下がりが超早いわけでもなく、不穏。



88分、川崎山田のゴール



まず家長がスーパー、反応した山田も偉い、というのを前提として。
セットプレイにおいて怖いのは、セカンドボールに対するマークのズレ。
他のチームがどうかは分からないが、筆者の経験上は
「ボールが外に出るか大きく前に蹴り出すまでマークは維持」
というのが基本的ルールだと思っている。明確にしたままの方が対応しやすい。

このルールで言えば、まず家長を離したくなかった。たぶんピトゥカがマークしていたんだけど、ブロッキングされそのままうやむやになってしまっている。
あと山田をマークしていた佐野がちょっと気を抜いたように見える。
実際シュートの瞬間、手遅れながらユニフォームを引っ張るという抵抗を見せては居るのだが。
で、大外にも川崎の選手がドフリーで待っているので状況としてかなり混乱していた。

もちろんスーパーゴールなんだけど、セカンドボールに対してマークの所在は出来ればはっきりさせたい、それが徹底できていれば防げた可能性も充分にあるかなという印象。


92分50秒、川崎の中盤が浮く


これが超気になったところ。
人数が同じ時にある程度管理できていたところが怪しくなってきている。
ゴールキックのシーンでも若干怪しいが、その後瀬川が保持するシーンで家長ががっつり浮く。
CBは山田の裏抜けを警戒して強く出れないため、中盤がコースを消すしかないのだけれどもたぶん見えてない。
数的優位から追いつかれて焦っているのは分かるが、この守備の仕方をしてしまうと数的優位が全く活かせなくなってしまう。
逆に川崎としては中央での滞留が減るので10人の方が良い説はマジであるかもしれない。
その上で鹿島のプレスが勢いはあるが管理があやふや、となれば押し込めるのは必然と言える。


93分、川崎PK獲得



このちょっと前のシーンから、明らかに鹿島が後手後手になる。
PA無いに人はたくさんいるがセカンドボールに対して圧がかからない、山根の追い越しに対して誰もついて行けない、クロスに対して家長のマークが出来ていない、結果的に遠野のマークを捨てて常本が競りに行くが遠野のところにこぼれてシュートを打たれる、そのこぼれ球に対しても誰も詰められない。

たとえで挙げてしまって申し訳ないが、この一連の間、松村はただPA内でボールを眺めているだけになっている。
家長のマークも、橘田へのアプローチも出来ていない。松村に限らず、多くの選手が思考停止でいるだけになってしまった。
数的優位を活かす守備以前に守備のセオリーが全て無に帰している切ないシーンだ。

阻止するタイミングはいくつかあった。
まずはこぼれ球を拾った瀬古に対してのプレスが甘く、中央を割られたところ。
次に割られたときの受け手である家長に対してプレスバックが遅れたところ、山根の追い越しについて行けなかったところ。
山根のクロスに対してマークが掴めなかったところ、セカンドボールがこぼれやすいバイタルエリアを誰も監視できなかったところ。

これだけエラーが重なればきつい。


PKは単純にGKの両足が線から離れたというやり直しだと思う。
二回目を違う球種にしつつ、相変わらずな蹴り方をする家長のメンタルはお化け。


総括



鹿島はプレッシングを超やりたそうなんだけど、完成度としては明らかに撤退迎撃の方が高かったのが気になる。
もちろんリーグ戦もまたチャレンジしながら改善する場ではあるんだけれども、川崎相手に試みるのはきつかったかなあという印象。もちろんロングボールを蹴らせて回収できるシーンもいくつかあったし、一辺倒に否定するわけじゃ無いけど撤退時のスペース管理が予想以上に良かったからこそ余計にそう思ってしまう。
一方の川崎は後手を踏みながらも解決策を自分たちで見付けて浸食していく流れは良かった。
シミッチと橘田のキャラクターの差が大きかったなあというのと、大島が大島たる所以が見せられなかったかなあという部分は気になるけど。脇坂も要所で持ち味は見せたけど、能動的に局面を作るところまで求められる立ち位置よね、チームの中でという感じ。

あと家長は基本的に正解を出し続ける精密機械になっていてすごい。もちろん運動量やトランジションに物足りなさはあるかもしれないが、それを上回るリターンが明確にあるよなあ。

個人的に一番言及したいのは藤井。素材の良さ、攻撃時の機能性は高いからこそ守備をしっかり学んで戦えるSHになって欲しい。岩政先生なら出来るんじゃ無いかと期待しつつ、この辺で。

このブログを検索

ブログ アーカイブ

QooQ