2024年 J1第26節 広島vs柏「チーム力の差という言葉を具体的に考えてみる」

2024年8月26日月曜日

2024J1 サンフレッチェ広島 柏レイソル

t f B! P L

 



キーボードを叩く手が重いし、ぶっちゃけ見たくない試合ではある。

あまり認知されていないが、生まれも育ちも柏の私はレイソルサポーターだったりする。クラブチームの1個上にいた先輩がレイソル下部経由でプロになったし、県大会ではレイソル下部にぼっこぼこにされてるし、人生最古の記憶は99年のナビスコ決勝だったりするのだ。
ちなみに先輩は現在名古屋にいるので、名古屋サポの人は応援してください。

そんな私がこの試合を見返して書くのは、むしろそういう試合こそ書くべきなのではという維持に近い気持ちがある。
どんなところに差があったのか、ピッチ上でどんなことが起こっていたのか、それを書くことで一人でも多くの人に何か伝われば良いなと思う。


配置

配置は広島が3421、柏が442。よって噛み合わせはざっくりこうなる。


この時点でなんとなーく考えることとしては、

  • 広島の1トップに入る加藤をどう柏が管理するか、そこから加藤がどう逃れるか
  • 広島のWBを柏が押し込めるのか
  • 44ブロックの泣き所であるハーフスペースを広島が攻略するか、柏が守るか
  • 広島は柏にボールを持たせたいかも?
というところがざっくり思い付く。
柏は垣田ではなく小屋松を細谷の相方に起用。前節でもリンクマンとして優秀な働きを見せていたため、保持の姿勢を見せようかという予感が少し。

前半

開始早々は柏が押し込む展開。保持に色気を見せず、縦へ速い選択をしながら圧を高める。

4:50の柏のチャンス、起点を作る小屋松の良さが輝く。
独力の派手な突破がなく評価されにくい小屋松だが、個人的には滅茶苦茶賢い選手だと思っている、その魅力が詰まった場面。
ボールを奪った瞬間に塩谷の脇を取り、上手くブロックしながら反転、一気にゴール前へと迫ることに成功した。

広島は7:20あたりで柏のハーフスペースからアタックを見せる。
ハーフスペースという言葉は、わかりやすく言えばSH,CH,CB,SBの間に生まれるスペースのことである。厳密な定義はちょっと違うかなと言う気もするが、この解釈をしておけば大体分かると思う。


ここををどう攻略するか(どう守るか)が一つ試合の鍵になる部分、そこで一つ形を作れたのが広島としては大きい。

柏は442からほぼ配置を変えることなく、その練度を高める!という方向でシーズンを進んできた。442を貫くということは、イコールハーフスペースと向き合うということである。そのハーフスペースをさくっと使えたこと、これは見逃せない。
そもそも44ブロックに対して広島の配置は泣き所を叩きやすい構造になっている。なかでも松本はここのスペースに対する理解と嗅覚が非常に高い。後に述べるが、2点目はまさしくそれが出たシーンだった。

ちなみにこのハーフスペースに対する柏の回答の一つが、直後8:35に見られた白井の守備。ハーフスペースにいる選手を背中で消し、横スライドだけで対応しようというところ。

ただ工夫すれば崩せる、というのが9:30の広島決定機未遂。満田が運ばずにパスを選択したことでチャンスは潰えたが、このシーンが柏の苦しさの象徴みたいな部分。



この場面、広島も非常に上手かった。
まず、誰も難しいことをしていない。川辺のターンも180°ではなく、小さめの角度でターンしている。それで済むように、東が落ちながら前向きにパスコースを作っているし、その動きを川辺は視認している。
白井が遅れながら出たことで、川辺はワンツー気味に中盤を抜け出す。
東に片山が付いていった瞬間、満田は出来るスペースを見逃さずに膨らみながらスペースへ走り出す。
同時に一つ内側を松本が走っているため、犬飼が外に行きすぎればゴールまで一発のパスもあり得た。

広島のシャドウというかインサイドハーフは比較的自由度が高く、チャンスになりそうと思えば同サイドに二人が集結することも珍しくない。加藤が二人を見ながら振る舞うことでバランスが取れているのも地味だが好印象。
後大きいのは、動き回らずに中間を保ち続けるタイプのボランチにシフトチェンジしていっている部分だと思う。以前の広島に比べて、居てほしいところにいることが多く、結果として保持の安定や攻撃→守備の切り替え時に穴が生まれにくくなったのではないかと。

柏の苦しい点は、前から同数で守備できるじゃん!という小屋松のアクションに対して連動がどうしても追いつかないところ。以前からここがずっと気になっていて、それでも最近はちょっと改善された気がしていたがこの試合は非常に怪しかった。

11:40当たりからの広島の保持もDHとIHで隙間を使いつつ裏へのランを狙い、それによって出来たスペースを満田が使って大きく展開。
このシーンを見ると、川辺も満田も白井が一人でなんとか管理しなくては、という切ない守備になっている。そりゃキツい。

もし柏に勝ち筋があったとしたら、広島のミスが嵩んだ前半にカウンターを差し切ることだったと思う。下位への油断か疲労か、イージーなミスがカウンターに直結する場面がいくつかあったが、残念そこは大迫を含めて広島が前半無失点で耐えきったのは結構影響したのではないかと。

18:40も見返していて目に付いた場面。
柏は基本的に、同数でプレスできるチャンスがあればかけようという姿勢を随所に見せている、特に最前線。
で、この場面も小屋松が先陣を切って背中でパスコースを消しながらプレスのスイッチを入れる。んだけど、それに対して後衛が余りにもマークを捕まえ切れていない。
特にこのシーンでは、川辺を見るのか内側に絞ってきた新井を見るのか戸嶋が決めきれず、結果的にカウンターと同じように最終ライン剥き出しで攻撃することに成功。これを「疑似カウンター」と読んだりもするのだけど、保持に対してかけてくるプレスをひっくり返すとカウンターのような攻撃を繰り出すことが出来る。
縦に速い攻撃が売りだった広島がこれを身に付けた、というのが結果に繋がっているかもなあと思うなど。
手詰まりになりそうなタイミング、ここで言えば小屋松のプレス開始、を見たときにちゃんと助けに選手が多く動き、かつ被らないという点がチームとしての整備なのか個々の判断なのか、というのが見ている側からは分からないのだが・・・
DHとIHがとにかく隙間でコースを作ろう、という意識がしっかりと見えるチームだと思った。

28分、柏は保持前進を目指すが狩られてカウンターから広島の決定機へ。
この保持がもうなんというか、現体制の限界を感じる部分の一つ。
そもそもこの低い位置というのは、その後に現実になったとおり失ったら決定機を作られる場面。
そしてミスが起こりやすいか起こりにくいかを左右するのは、プレーのスピード。
ゆっくりジョギングしながらするコントロールと、全力ダッシュのコントロールどっちがミスしやすいかは明白。
なんだけど、この場面の柏はスピードアップして無理矢理プレーしないと繋がらない形になり、結果見事にミスが起きている。

細かいことをいえば、片山がパスを受けた延長線上に止まって受けられる白井がいるのだからそちらに出せば良いとか、ワンタッチで受けられるタイミングで小屋松も細谷もパスコースを作っている(被ってるんだけどね・・・)とか判断のミスというのもある。
けどそもそも保持というのはある程度設計してテンプレートがあって、個々による判断のブレが起きないようにトレーニングしていくもの、と私は自身の選手経験と観戦経験から考えている。

なのでこの場面、ずーっと試合で果敢に保持に挑むものの改善が見られない今シーズンを象徴するように見えてしまって辛いのである。


広島の先制はカウンターから。
ここも加藤に対して奪いきる勢いで寄せるものの奪いきれず、ディフレクションしたボールが中野の足下へ。運も味方したとは言え、いずれは決壊したであろう展開なのでやむなし。
中野はあっという間にチームを代表する選手になってて凄い。一人で試合を作って試合を替えられる選手だし、年齢を考えても今年中にヨーロッパから買われそうな勢い。

この試合を通して、ずっと加藤はボール奪取時の起点として上手く機能していた。背負う形の静的な起点ではなく、ボールをずらして運びながら時間を作るのが非常に上手い。運ぶと同時にDFも動かせるため、背後のスペースを生み出す副作用もあって柏はずーーーっと手を焼くことになっていた。


とにかく前半を通して柏は守備の基準点が時折ブレる、で広島はそれを見逃さない。
柏は保持にこだわる場面を見せるが実る場面はなく、むしろチャンスの創出はロングカウンターから。
なんとも皮肉というか、やりたいことと現実が乖離している柏、淡々と相手の嫌がることを押し付け続ける広島という構図に。
広島は相手に合わせてやり方を変えながらではなく、自分たちの持つベースをアレンジする形で押し付けてくるので考え方とか判断基準はたぶんそんなに変えてない。
チャンスがあれば誰でも前へ走る、裏を狙う。隙間に立ってパスコースを作る。
とにかくボールを取り上げる!速攻!というスタイルからしっかりした撤退守備と保持を手に入れた広島と、ロングカウンターという武器を活かせぬまままごつく柏というのが正直な感想。

先程もちょっと触れたが、立ち上がりの悪さをついて先制すれば展開は違ったかもしれないが、おおよそスコア通りの内容という前半だった。


後半


後半も大きくは変わらない。
51分に柏の超決定機。ぶっちゃけ試合前から、勝つならこのパターンを擦るべきかなとは思っていた。
荒木に対して細谷が馬力で勝負できる予想、要はヘディングさせずにスペースへボールを落として推進力で勝負させれば良い、というもの。この勝ち筋を通せるかどうかかなあという漠然とした予想は当たってたな、というシーン。
まあやっぱりロングボールなんですけどね。

54分にはサヴィオのスーパーパスから小屋松。
見返してみて気付いたけど、広島は大味な展開に対してちょっとしんどそうかなと思うところがある。素直なロングボールなら鉄壁の3バックなんだけど、カウンター時に塩谷目掛けて突っかけてぶち抜く、荒木に対してヘディングではなく走らせる形で勝負させるあたりが攻略法になる、かも。とはいえ最後には大迫がいるのでそこも大変。

余談だけど嫁が大迫を見るときずっと目がハートマークなので、いつ離婚を告げられるかビクビクしてます。

広島の2点目は綺麗なハーフスペースの攻略から。
ここも柏は3vs3で人数が足りてるんだけど、ボールに行こう行こうという姿勢を見事に利用されるというか、あまりにもさらっと崩されている。不用意に前進した白井を見逃さずしっかりスペースを利用できる松本の能力が綺麗に発揮された場面。

70分ぐらいから、なぜか広島がボールを奪おうと大味な試合展開に乗ってきてくれたおかげで多少形が出来るようになってきた柏。ただそこでも差し切れず、最後はDOGSOで終幕。


チーム力、という言葉を具体的に考える


この試合、抽象的に言ってしまえばチーム力、組織力、完成度みたいな言葉になる。実際そういう感想は多く見かけた。じゃあこれってどういう場面で出てくるんだい!というところをなるべく分かりやすく解説したい。

まず柏の試合について書くとき、ほぼ毎試合触れている気がするのだが
「判断基準を揃える」
というのが個人的に相当重視して試合を見るところ。

この場面ではテンポを落としてボールを繋ぐのか、それとも縦に速くダイレクトな攻撃を狙うのか。
守備であればボールを取りに行くのか、塞ぐ形で止めるのか、撤退して低い位置でブロックを形成するのか。
これがどれだけ揃うかというのがサッカーではかなーーり大事になる、と思っている。
みんなが繋ごうぜ!という位置取りをするのにボール保持者が裏だーー!と蹴ってしまえば誰も反応できないし、逆に保持者が繋ぎたい!ってパスコースを探しても受け手が裏だーーー!となればそりゃパスコースは存在しない。

そんな極端なことはなかなか起こらないが、こういう「同じ絵を脳内に描けるか」というのがこの試合では如実に差として出たかな、というところ。

なるべく平たい言葉で書けば、パスを繋ぎたい場面で広島はしっかりとパスを繋ぐし、それがチャンスに結びつく。走って欲しい場面では複数人が走る。守備で顕著に見られたのは、奪いにいくでも引くでも無く、その場でしっかり塞ぐという立ち位置を揃って取れている場面。70分前後にボール奪取しようとばたつく場面があったが、それ以外はブロックを形成する位置がしっかり統率されていたように思う。

翻って柏を見てみると、前線はプレスを揃えてスタートする、小屋松がスイッチとして方向を限定しながらが主。おそらくは荒木の供給能力を見て、そこに制限をかければチャンスが生まれるという準備もあったかもしれない。だが前線のスタートに対して、中盤から後ろが助けにいく広島の選手を捕まえきれず、むしろ手薄な状態で攻められるという場面がいくつか。

攻撃でも同様に、戸嶋小屋松はDFの隙間に立ってパスをさばこう、前進させようという意図が強く見える。だがその先、この二人が受けた後でパスを受けてあげようという次がなかなか現れない。またこの二人もたぶんチームとしてタスクを整理されておらず個々の工夫で頑張っているため、他の選手とイメージが食い違ったり動きが被ったりともったいなく見えるシーンが多い。

その上で、この試合主なチャンスになっていたのはそういった工夫よりもシンプルな速攻。しかもその速攻に繋がるのは低めの位置でしっかり守ったとき。
つまり小屋松のプレススイッチもリンクマンとしての動きも非常に良いプレーと取れるのだが、チームとして有効に活用した場面がかなり少ない。

このチグハグ感が、チームとしてどう力を発揮するか揃っていない、ひいては組織力というところに繋がってくるかなと思う。

あとはベンチワーク。
これはこの試合に限らないが、柏の試合は後半に書くことが少ない。修正や変化があまりない。
よく言えば自分たちのサッカーと表現できなくはないが、それで勝てていないということはなにかピッチ上で良くないことが起こっているわけで。
この試合で言えば、広島のボランチとシャドウは柏のCHに対してずっと影響を出すポジションを取っていた。結果としてCHが守備時にタスク過多となり、振り回される形に。
その上で前線のプレスに合わせて押し出す!というのは酷な要求である。たぶんカンテとかじゃないと無理。

そういったときに必要なのが、役割を整理してあげるベンチ陣の仕事だと思うのだがこれが本当に見られない。

柏のレビューを見ると多くの人が、シーズン開始時に希望を持ち、現状砕かれている。それはなぜかと考えると、成長過程だと思っていたものが完成形だったからなのではないかと。
序盤は様子見というか、
「ああ、こういう哲学でサッカーをするんだな、そこに向けてこれから練度を上げていくんだな」
と思って見守っていたのがいつまで経っても同じような現象が繰り返されている、という状態。しんどい!!!!

タスクを整頓するということは、脳の負担を軽減してあげることである。
こういうときはこれをする!とある程度指針が決まっていることで決断が早くなり、無理して考えすぎなくていい。

例えるなら、九九を覚えている人と毎回計算する人みたいなものだ。そりゃ大変だよ毎回計算するのは。

で、こういうのは試合中の修正もそうなんだけど、日々のトレーニングやミーティングで培われるものだと経験上思う。
ピッチに立つ前に監督の仕事は半分ぐらい終わっている、という言葉もあるしね。


ということで、なるべくサッカーに詳しくない人にも分かりやすいように、この試合を題材としてチームの完成度というものについて解説してみた。

所感


その他、所感。

  • 荒木はパス供給能力が磨かれるだけで一気に評価が跳ね上がりそうだなと思ってから2年ぐらい経つ。とはいえ今年はちょっとずつチャレンジしている姿勢も見えているので頑張ってほしい。
    • それが必要ないぐらい、横にいる佐々木中野(以前は塩谷)の無理矢理前進させる力が元々凄かったのはある
    • その上で今はボランチが静的なプレーできるからチームとして良い変化だなあと
  • 柏の山田、小屋松が評価低くなりがちなのは現地で見てちょっと納得。ボールのないところが見える人はスタメンに納得しているし、ボール周辺を見ている人から評価は低いんじゃない?という気持ち。他のサポさんの質問箱見てると切ない。頑張ってるよあの二人。
  • 柏はある程度時間が作れればSBをウィング化させてSHをIHとして振る舞わせることは出来る。ただそこからどう崩すかはまだ未整備っぽいんだけど、それでも山田とかはこの方が輝けるだろうし、そこは進歩かなと思う。
  • 小屋松、広島にいたらすげー輝きそうだなと一瞬考えた。
  • 加藤のキープ力は凄い、技術で時間を作るスペインぽいキープというか。
  • なんだかんだ個の力で殴るシーンを作ってはいるから、残留はこのままの状況でも出来なくはないんだろうな
    • 問題はその内容を評価、査定する仕組みがレイソルにあるのかという
  • 川辺はもっとBoxToBoxのイメージだったんだけど、しっかり居るべき場所に居れるしテンポも落とせるし、完成度が一回り大きくなって帰ってきた印象
  • 全然試合と関係ないんだけど、いつの間にかピースウィングに芝生広場が開放されていた。両サポーターが入り交じってのんびりしたりサッカーボール蹴っ飛ばす光景は、すごく牧歌的でJリーグらしい光景だなとちょっと感動。僕も次はボール持っていってリハビリしますね。

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