2024 J2 第1節 岡山vs栃木「蹴ると蹴らされるの違いと意思統一」

2024年2月28日水曜日

2024J2 ファジアーノ岡山 栃木SC

t f B! P L

 
色んなご縁があって、J2岡山対栃木を栃木ゴール裏で見ることになった。

なんとDAZNスタッフに「栃木、サイコー!」を撮られ、しかも本当に使われるという希有な事態になったある意味記念すべき試合。気になる人はDAZNにて。

元々2024年の個人的テーマとして「J2、J3も見る、書く」というものを持っていたため、現地+DAZN見返しという形で書いていく。

個人的印象だが、岡山方面はレビュー書く人が5000人ぐらいいるイメージなので、あえて栃木に焦点を少し寄せつつ書きます。


両チームの配置


まずはざっくりと両チームの配置。

岡山は3-4-2-1、栃木は3-1-4-2がベース。


共に後ろ3枚をベースにしながら、2CHかアンカーかというところが違い。

ただ実際の試合展開も含めると、3バックの岡山と5バックの栃木という捉え方になったかな。


ざっくり展開、気になる場面


立ち上がりは両者ともに固めのロングボール中心としてセーフティな選択。
3分頃に栃木のGK丹野がロングボール処理をミスしピンチを迎えるもなんとかしのぐ。

このあとのCKまで含めて、序盤5分で個人個人の空中戦では岡山が優位そうな雰囲気を見せるんだがこれがこの試合結構大きい影響を与えることとなった。


7分、岡山の保持が始まると共にDFラインまで落ちて4バックの形を形成しにいく藤田、それによって出来たスペースから持ち上がり、最前線へフィードをする田上。

田上はこの試合精度の高いフィードを繰り返し蹴れており、競り合いも強く良い選手だなあと。そして地味なんだけど、最後尾まで降りた後しっかり押し上げてロングボール後のこぼれ球に対してアプローチが出来ている藤田、偉い。


20分の岡山保持、栃木は最終ラインがだいぶ低く、また岡山のWBが高めにポジションするため完全に5バックでラインを形成する形。ぶっちゃけこの状況ではなかなか前からプレスがハメにくいと思うのだが、前線は追い回したい雰囲気が満載。
このシーン以前にも、最前線と後ろでプレスを始めるタイミングがあまり共有できていない感じはあったが、このシーンでは意図と配置がバラバラになっているのが如実に出てしまったと思う。


直後21分、ここは栃木が目指す守備の形が出せそうだったところ。


29分、岡山のフィードミスに対しクリアではなく繋ぐ選択をした福島、これがパスミスになり一気に岡山のチャンスに、最後は木村のシュートを丹野がファインセーブ。
技術的ミスはどうしようも無いのだが、奪われてからパスが出るまで木村を見付けることが出来なかった福島はちょっと辛い。

映像を見返すと首を振る動作が全くなかったため、存在に気付けていなかったか。とはいえ直前のプレーからそこに居る予測は出来るため、対処のしようはあったかなーと思ってしまう。


31分、栃木のシンプルな速攻。南野を起用する意図が見えた良い場面。グラウンダーで走らせるのが一番生きそう。


35分、岡山先制。木村が上手かった、と言えばそこまでなのだが。
栃木としては3人でプレスにかけながら全員が一発のキックフェイントで振られてしまったのが痛すぎた。遅れてプレスにいった小堀が内側を切るのがセオリー、で挟み込むという形が理想だったがどっちに限定するかが共有できなかった。とはいえあれだけ細いシュートコースを通した木村はお見事。


41分、栃木の押し込んで時間をかけた攻撃。
陣地回復のスムーズさは仕込んできた意思共有が見える。その分あまり崩すのは得意じゃないかもという印象。カウンター以外の攻め手をどう作るか、って簡単じゃないよねマジで大変。


直後41分、岡山のショートカウンターが炸裂、またしても丹野が好セーブ。
栃木はマイボールにしたいつなぎのパスが引っかかってしまうシーンがいくつか。このシーンは技術的なパスミスというよりも、前へ加速したい受け手と確実に繋ぎたい出し手のすれ違いなので、シーズンが進んですりあわせが出来ればマイボールは増やせそう。あと丹野は1vs1の詰め方と体勢の作り方が、しっかり我慢できてて綺麗。


後半開始直後、岩淵の超ロングシュート。力の抜けた良いインパクト。現地は悲鳴でした。


53分、岡山追加点。実はたぶんこのゴールが今季の岡山らしいゴールになるんじゃないかと密かに思っている。阿部の強さで競り合いに勝ち、柳のスピードで裏を取り、田部井の技術でそこに通し、最後はグレイソンが沈める。個々のクオリティを押し付けるようなショートカウンター。


67分、保持を試みる栃木のロスト。ここも切なさが詰まっているので後述。


79分、全然繋がらないしチャンスにもならない栃木のロングボール、なんだけどこのシーンも後述したい。良い意味で。


最後は終了間際に投入されたやすたか柳のゴールで3点目が決まり決着。
頑張れやすたか、今年はチームコンセプト的にちょっと大変そうだけど。

栃木のゴール裏からも試合後に
「余計なことしてんじゃねえ!さっさとJ1いけ!ベンチじゃなくて試合出ろ!頑張れ!」
という声が飛んでて、愛されてるなと思いました。良かったね。


所感


栃木としては、何度か見せたように前からはめ込む姿勢を打ち出したかったように見える。それを感じさせたのが21分あたり。

だが、岡山は保持を最優先することなく、チャンスがあれば長いボールを前線に入れるスタイルへ変化していた。それを支えたのが、グレイソンをはじめとする個人能力。

昨年に比べて岡山は、個人能力の高い選手が揃ってきた印象が強い。多少無理目な局面でもフィジカルや技術でマイボールに出来たり、繋ぎきったり。柳とグレイソンは身体能力による陣地回復と切り替えスピードの向上、藤田末吉田部井と技術のある選手でクリーンな前進や突破力を装備。

チームとしていかにクリーンに前進するかではなく、より勝てる組織作りとしては非常に理にかなっており、またそれが見えやすい形で出た試合になったという印象が強い。
蹴ってもある程度繋げる、足下でも失わない選手がいる、ということで仕込みに時間をかけすぎず局地戦で勝ちながら試合を握っていく、そんなイメージ。柳はどのチームにいるか全然把握できてなかったんだけど、酒気帯び運転からのカムバックだったことをふと思い出した。

蹴るのか繋ぐのか、意志と準備の統一


栃木は足下で繋ぎながら前進したい素振りを随所に見せるが、それが実現したシーンはほぼ無いまま試合が進んでしまった。

ボールを持ちながら前進するには、それだけの準備と仕込みか、選手の質が必要となる。この試合で言えば、栃木には準備と仕込みはあるように見受けられなかった。象徴的だったシーンは67:25あたりのシーン。



右サイドから左サイドへボールを展開、と同時に各選手がポジションを取り直す。

結果、この形になる。

DFを背負って受ける選手というのは当たり前だが前を向いてドリブルすることは出来ない。だから後ろ向きのままキープして、前向きの選手に渡すのが理想型。岡山の前進でちらほら見られた「レイオフ」と呼ばれるやつ。これをするための受け手が居なかった。

本来受け手になれそうな奥田は、裏を取るのだと思って走り出している。
この走りは理にかなっている、大島が引いた分スペースが生まれるからだ。

もし足下に付けるなら、このスペースで「背負っていても出せるパス」を受けてあげる人が必要だった。

このシーンはあくまで代表的なシーンであり、このシーンに限らず保持するのかロングボールで前進するのか統一されていない様子が窺えるシーンは多く見られた。

また保持そのものも、爆弾ゲームのようにひたすらプレスをかわすために横へ動かすシーンが多かったかなと思う。
保持しながら前進というのは難しく、どこかで相手の守備を引き寄せるor迷わせることで次の受け手に時間とスペースを渡してあげる必要がある。それをどこで作ってあげるのか、どうやって迷わせるのか準備がないまま保持を試みているように見えてしまったというのが正直な感想。

この点を岡山は、田部井のあえてポジションを崩す動きで数的有利を作ったり田上のロングボールでプレッシングが間に合わないようにしたり藤田がワンタッチでボールを逃がすことでプレスを空転させたりというやり方でクリアしていた、というのと並べてみるとわかりやすいかもしれない。


「蹴る」と「蹴らされる」の違い


後半の後半、残り1/4ぐらいから栃木が徐々に盛り返してきたのは、蹴らされる状態から蹴る状態へ変化してきたことが大きいのではないかと考えている。

同じロングボールを蹴る、という行動でもこの二つには大きな違いがある。

一番の違いは、蹴った先の配置と蹴るタイミングを自分たちで選択できること。

蹴らされる、というのはほぼほぼプレッシングでパスの出し先がなく逃げ場としてロングボールを蹴ることを意味する。この場合、周囲はパスを繋ぐつもりでポジションを取るため、ロングボールを蹴った先で不利になることが多い。

それに対し自ら能動的にロングボールを蹴ることは、意思統一がしやすいためボールの行き先で勝負が出来る。この二つの差はヘディングでの競り合いだけではなく、セカンドボールの回収人員やDFラインの押し上げにも影響が甚大だ。

このタイミングで前線に蹴るんだな、と分かればショートパスのコースを用意することなくチームとして押し上げられる、だから中盤はよりセカンドボールに向かっていけるし、最終ラインもしっかりと押し上げて陣地の回復が出来る。

繋がらなかったが、79:06あたりのロングボールは矢野とイスマイラが万全の状態で待ち構えていたため、チャンスになってもおかしくない意思の統一が出来ていた分かりやすい場面。これがより共有されれば中盤も合わせて押し上げることが出来ただろう。

83:18に蹴ったフィードがより中盤も合わせることが出来た例。
先程の図の場面と違い、背負う矢野に対していいサポートが出来ているのがよく分かる。

あとこうやってタイミングを揃えることが出来たら、イスマイラのところからより理不尽にチャンスを作れる匂いは結構していたので、宇宙の彼方イスマイラへ運命背負いロングボール作戦というのは現実的かつ勝算もある程度あるんじゃないかとふと思った。守備ではあまり計算が立たないが故の途中交代なのかもしれないが、南野と並べれば前線の起点も裏取りも両者相互性があるため陣地回復とチャンス創出の点で採算は取れる気がする。

判断基準を揃える大事さ


こういった意思の統一は、決め打ちで出来るものではない。その場その場で繋ぐべきか蹴るべきかを選手が判断してプレーする。だからこそ、判断基準を揃えることが大切となる。
こういう場面なら蹴った方が良いよね、だから蹴るのに備えて走っておこう、という同じ予測をみんなができるかどうか。

その点が岡山は非常に精度が高かった印象。昨年よりもテンポの早いスタイルへ買えていると思うのだが、繋ぐことに固執せず、かといって思考停止で放り込むわけでもない、けどイメージは共有できているという点で今年は本気で昇格が見えてくるのでは。


栃木はボール保持の夢を見るか


身も蓋もないことを言ってしまうと、栃木がボール保持を目指すというのはかなり茨の道になりそうだと思う。シーズン中に仕込むには時間と労力がかかり、かつ結果をある程度諦める必要が出てくる。それだけ保持というのは大変なのだ、すぐに実装するにはお金をかけるしかない。

といった点で、現実路線に割り切った終盤は決して0-3の内容ではないと思うし、その方向でソリッドにやってみても良いのではと思った。だがここは哲学含めてクラブが総合的にどこを目指すか、というものなので簡単に言及してはいけないのもよく分かる。

あくまで客観的に見るとこういうことがピッチ上で起こっていたよね、というのが試合感想文だという持論なので、あまり提案は書かない方が良いのかなと思いつつ。
一方で批評だけして具体的な改善案を出さないのは卑怯だろ、と思う自分もいる。難しいね。現場で戦う人は凄い。

現居住地から最も近いJ2クラブかつ同級生が頑張ってる岡山、ご縁があって見る機会に恵まれた栃木。ちょっと今シーズンは意識して試合を見ていこうと思います。





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