2024年 J1第16節 町田vs新潟「苦手の押し付け合い!お前がピーマン食え!」

2024年6月1日土曜日

2024J1 アルビレックス新潟 町田ゼルビア

t f B! P L

 



今年のJ1開幕前に町田の黒田監督が

「足元でチャカチャカやって、何本パスをつないで点を取るというサッカーが果たしてサッカーなのか。日本の甘さはそこにある。」(ソース

という発言から燃えに燃えたであろう新潟との絶対に負けられない代理戦争的試合、ということでぶっちゃけ超楽しみでした。

町田としては負けたらひたすらこの発言を擦られるだろうし、逆に新潟サポは名指しで新潟のことですと言われたわけではないけどギラついているあたり新潟のプレースタイルに誇りがあるんだなあといろいろ試合前から楽しいことが多く。

「こんなサッカーが優勝したらつまらない」vs「パスサッカーは甘え」という宗派戦争の様相を呈していたりするわけですが、個人的にはどっちもサッカーだし正義の反対はもう一つの正義だね、なんて気持ちも。

それはそうとして単純に、町田の強度に対して打開できるのかというのが試合前の楽しみでした。

これは広島にも若干共通するところですが、プレスの練度が高いというよりも強度で圧倒するプレスだと思っているので、丁寧にプレスをかいくぐろうと立ち向かったチームには結構ご褒美が来る、とはいえ奪われれば即ピンチという勝負をどこまでするかなあと。


ざっくり総評まとめ


忙しい方はここだけ見ればという項目を作ってみる。

  • 保持が得意な新潟、ハイプレスとカウンターが得意な町田が互いに得意なプレーを奪い合う構図に。
  • 町田としては高強度のプレスで新潟からボールを奪い、得意を封じたい。
  • だが新潟は被カウンター対策と失い方の管理として、ロングボール主体を徹底しオープンな展開を回避。
    逆に町田の保持時には構えて守ることで町田が苦手な保持攻撃を押し付ける序盤の展開に。
  • 試合が進むにつれ、プレスのスピードと配置になれた結果、徐々にボールを持てるようになった新潟。特に小見はボールを持ちながら推進力を見せることでプレス打開の動きが良い。
  • 町田は構えられた守備に対して個々の工夫が見えるものの、どう攻めるかの共有が仕切れず
  • あと町田の選手はちょっとコンディション悪そう?
  • 最後まで得意なプレーをさせない試合運びを徹底した新潟が制する
  • 町田にボールを持たせて撤退守備、というのは今後他もやるかも
  • ただ町田のプレスをかいくぐるのは新潟以外に出来るのかしら



前半


お互い442がベースなので噛み合いがち。

新潟はCBが開いてGK交えてポゼッションを試みる形を取るが、町田は前からどんどん人を捕まえる上にちゃんとGKへのやり直しパスコースを制限しながらプレスをかける、結果的に幅を取ったCBが運びながら前線へのロングボールで陣地を回復する、という立ち上がり。

蹴るときは真ん中ではなくサイドの裏へ蹴りましょう、という原則を徹底、後は前線の鈴木が上手いタイミングで降りていれば、裏ではなく鈴木へのフィードを選択という場面も。

対する町田は複数の選手が列降りをしてある程度保持を目指すし、簡単な浮き球のロングボールだけではなくグラウンダーで斜め外への抜け出しに対してパスを出して背負いながら受けたり。

予想に反して町田が保持し、新潟は速攻気味となっていた。

新潟が後ろを3枚に変形させても町田はSHを押し出して同数に、でプレスをかけるときは徹底して内側のやり直しに制限をかけていたので蹴らせて回収がプランのベースにありそう。新潟の特徴ややりたいことを取り上げるという意味でも。ただ新潟がある程度そこを割り切った準備をしていた印象が強い。

で、守るときもある程度町田に保持をさせた上で最後の部分で守ろうという意識が強め。

つまりこの試合の構図は

「いつもボールを持っているチームがボールを持てない」
vs
「奪ってからカウンターが基本形のチームがボールを持たされる」

という、互いに苦手を押し付け合う形に。

見所は前半17分、チームの備品であろうコーナーフラッグを躊躇無く破壊する平河でした。

20分頃にはちょっとずつ新潟も保持できそうならしていこうか、という構えを見せる。
たぶん保持も出来るし蹴っ飛ばしてもある程度進めますよ、と両方見せるのが大事。


前半22分、新潟の先制点はまず小見が凄い。奪ってから推進力を出した上で、迷いなくど真ん中に走り込む決断力とスピード。そしてそのコースを開けつつ起点を作った長倉も見事。

町田の守備としては前からマークを捕まえに行くという原則に従ってチャンミンギュが前に出てたっぽいんだが、昌子は背後にチャンミンギュがいる前提っぽい立ち位置で守った結果、ど真ん中がぽっかり空きそこを小見が千切った形に。

前文で「丁寧にプレスをかいくぐろうと立ち向かったチームには結構ご褒美が来る」と書いた。

このシーンはビルドアップではないが、町田の想定するはめ込みをかいくぐって生まれたバグを突いた先制点だったなと。

得点直後の新潟のチャンスもちょっと町田は普段見せないような軽率さが目立ったかなと思う部分が。
迷いなく外へクリアすべき場面で優しいクリアになったところを拾われてたり、その前にも普段ならシンプルに放り込んでそうな場面でミスが起きたり。

ただその直後同点に追いついたカウンターは速い!やっぱり速い!
レフェリーがトーマスデンに対して完璧なブロッキングを決めていてこのシーンもちょっと笑った。
単純にロングダッシュを試みてる選手の数で町田は圧倒できていたため数的優位のカウンターを確実に押し込んだというところ。ここの走る人数とかは徹底されているなと思う。


29分、新潟が保持前進にチャレンジするも町田が潰してシュートまで持ち込む。
このシーンはたぶん理想型としてレイオフの形(ワンタッチでの落とし)で秋山を使いたかったと思うんだが、レイオフの相手までプレスバックで追いかける町田の強度が勝った形に。
レイオフに使えるスペースの確保や幅も含めて広く取っているだけに、奪われた直後はボール周辺が町田の数的優位。それを活かしてシュートまでシンプルに持ち込む、たぶん町田が本来やりたかったのはこれとロング蹴られても回収できますよ、という二段構え。

30分ぐらいから新潟が押し込む時間帯に。
小見をはじめとして、ボールを動かすだけではなく保持者が一つ運んだりアクションをかけることでプレスを止めるのが非常に上手い。あとは出し入れして食いつかせてからのハーフスペースの活用。横幅隊がしっかりSBをピン留めしているから人に当たりたい町田の守備陣が誰も捕まえられないという理想的なシーン。

前から捕まえ切れれば29分みたいなチャンスを作れるし、逆に新潟がやりたい形で保持できれば33分のような隙間隙間を利用した攻撃が出来る、という一進一退かつお互いやりたいことが見れた良い時間帯。

35~36分をまたぐ辺りの新潟の保持はちょっと面白い。
真ん中を活用しての前進が難しいので、CB+GKで時間を作りながら、左サイドに多めの人数をかけることで町田が捕まえきれない起点を作ろうとする形。すっと近めのサポートをとる秋山も優秀、なんだけどこれに対しても苦しみながらしっかり跳ね返す町田。前線のプレスが限定した先に人をしっかり集めて対処。とはいえ新潟も鈴木→谷口の落としが決まっていればフリーで前進出来たと思うし割と紙一重のシーンだったのではないかと。


41:10あたりの引きで撮っているカメラが滅茶苦茶ありがたいんだけど、これを見るとある程度ロングボールに備えて新潟が前線厚めにしているのが分かる。
基本的にボール保持というのは前線から人が降りることで数的優位を作って前進していくことが多いのだが、人を捕まえるという町田のスタイルを利用し最前線同数バトル出来るのでは、という感じの配置。

ここら辺に新潟が保持以外でどう戦うかを見出そうとしている工夫が見えた気がする。保持したい配置から蹴らされるのではなく、能動的に蹴る配置。


前半終了直前に新潟の追加点。
ちょいちょいチャンスがあれば前プレもかけるぞ、と見せていた新潟の前プレからカウンター。

このシーンは町田がしっかり保持前進するぞ!というCB幅取りからスタートしてるんだが谷口が(たぶん独断で)背中で自分のマークである鈴木を消しながらボールへアタック、それを見て早川が前へマークをずらしたことが功を奏した。

平河から鈴木へワンタッチではたけていれば逆に町田が一気に前進出来ただろうが、それには平河へのパスを右足側へ出す必要がある。
こういう細かい部分は日頃からポゼッションを思考しているかどうかで練度に差が出たりするのよね、と思う。僕も選手やってた頃は「どっち足に出してんだバカ!」と死ぬほど怒鳴られました。


前半の総評としては、ターン制みたいな試合の流れ(攻守がはっきり分かれるリズム)にしたい新潟のリズムで町田は動かされた感じがあったなという印象。
ボールの保持は徐々に出来れば良い、まずは町田の攻撃時に最後のところで止めようという意志を見せて凌ぎつつ、時間が進むにつれポゼッション出来る時間帯を増やすことでよりターン制の色合いを強めたかなと。

町田は強度とロングボールの強さが根本にあるため、それらの強みを出させないために保持させるという狙いだとすればだいぶ成功している。
逆に町田は前線から追って蹴らせることで回収、奪えればカウンターという狙いだが新潟がロングボールを蹴る際にしっかり準備して蹴っていることで優位を思ったほど得られず、またプレスも点に繋がったシーンがあったとはいえ普段よりは機能していない。

ということで、新潟がやりたいことを発揮しつつ町田の強みを殺す展開に持ち込めていた前半に見えた。


後半


50分の谷口のプレーに代表されるように、新潟はしっかりと保持者が運べるのがやっぱり大きい。人に強く当たるということは、運んでずらせればフリーが出来るか保持者がフリーになる。守備陣のパスコース予測を運ぶことで難しくさせるプレーが新潟は随所に見られた。

新潟の三点目、蹴る直前に指示を出していたコーチと真っ先に抱き合っていたあたり、なにか分析して仕込んでいたのかな?とちょっと思った。
たぶんだけど、過去の試合も踏まえて「ファーは谷が強いけどキーパー前はごちゃるからそこからフリック気味で狙おう」みたいなことだったと個人的には推測します。


これで攻めにより出ないといけなくなった町田。

新潟はロングボールへの対応を視野に入れ、ラインを上げすぎずに迎撃の構え、それがわかりやすいのが55:20前後の配置。
これより高いと一発orオセフンのフリックで裏取りが怖いがミドルラインなら前向きに対処がしやすく裏のスペースが小さいためGKも含めてケアできる。
ハイラインのメリットは中盤へのプレスがかけやすい点だが町田は保持前進がそこまで得意ではないためロングボールへの対処を優先するならこの高さ、というのは理にかなっているなという印象。

63分の町田の決定機、ちゃんとこういう展開の時に変化を付けるというか効果的な動きを打てる平河は偉い。固められたら斜めに入ってきて裏を取る、というセオリー通りの動きだったが新潟は根性で守る。

この後ぐらいから、終始U字型のパス回しに終わっていた町田が中や斜めのロングボールを織り交ぜて攻撃するようになってくる。
ただいつ刺すのか、どこでスピードアップするのか、という連動がなかなか作り出せず一人一人は勝負を伺うもののなかなか集団での崩しに至らない。

あとここまでずっとデンとジェームズが空中戦で戦えているのも大きい。ましてやオセフンを交代で下げてしまったため、五分五分以上の勝負をし続けることで簡単に起点にさせないからそう簡単に放り込みと割り切れない町田はどう攻めるか模索が続く。


ならばボールを奪わねば、と頑張ってプレスにいくも既にポゼッションの成功体験を多く積んでいる新潟はそう簡単にボールを手放さない。
やばそう、と思った時点でGKまで戻してやりなおす、という判断が共有されているから他のチームなら前線に蹴ってしまいそうな場面でもしっかりボールを下げる。蹴るにしても良い体勢で蹴る、というのは前半からずっと行われているし、その上で剥がせるなら繋いで剥がすという意志が時間経過と共に強まっているためこの時間帯でもポゼッションの巧みさと強気さは変わらない。


町田は柴戸やナサンホが配置を変え動きを変え、とあがく様子は良く見て取れる。ただどうしてもバイタルエリアからは追い出された中での動きになるため、真ん中を揺さぶることができない。望月の高さとスピードで右サイドはやや優勢になるも、早川が対人の強さを見せギリギリでこらえる。

望月がターゲットマンとしての強さを見せる場面もあったものの、小島の好セーブ含めて最後まで耐えきった新潟だった。


総評


  • 新潟はやりたいこととやらせたくないことが比較的分かりやすかった。
    守備は奪えそうなら行くけど基本的には保持を許して速攻と準備できていない段階でのロングボールを徹底して警戒。また保持されているときも外に追いやりつつ中での起点は常に牽制をかける形。
    攻撃に関しては嫌な失い方をするよりもバックパス→体勢整えてロングボール、と割り切りながら町田の強度に順応するにつれて保持のチャレンジを増やす。
    オープンな展開を攻守共に避ける形にすることで、自分たちの得意な保持を増やしつつ相手は保持から崩すのが得意ではないだろうとボールを持たせる形に。

  • 町田としてはプレスの強度が少しずつ通用しなくなったこと、また持たされたときに同点をとるかのビジョンが最後まで見えなかったことがちょっと辛い。
    過去の試合も、ちゃんとCBが幅を取ってファーストプレスをかわすところは頑張っていたが崩すというよりも良い状態からナサンホ大作戦が根幹にあったためそれ以外の形で、かつボールを持たされる展開でどう攻めるかは今後詰める必要がありそう。
    この試合を見て、「やっぱ町田相手にはボール持たせた方がいいな」と構えるチームは少なくない気がする。

  • 新潟の保持はボールを動かすこととポジショニングだけではなく、保持者が一人交わす、外す、運ぶというアクションをちゃんと取れるのが偉い。その中でも小見は抜群の推進力とパワーを見せた。

  • 町田の攻撃がサイドに偏ることが想定される中で、早川が徹底して対人戦で抑え続けた功績は非常に大きい。早川の強さがあるからこそこの構図を取れたレベル。もちろん藤原も相当頑張っていた。

  • 町田は一つのコンセプトに沿って徹底して共有することで連動性とパワーを生み出す、という強さなのだがこの試合ではそれを取り上げられたときにどうするかが問われた。とはいえ町田の強度に対して保持を成功させるチームは少ない。新潟の成功例を真似することは非常に難しい。カウンターでは変わらずチャンスも作れていたし、ボールを狙い通り奪える場面もあったので悲観しすぎることはなさそう。

  • それよりも気になったのはコンディション。とくにチャンミンギュと鈴木はだいぶしんどそうに見えた。あとデュークも。デュークに関してはそこまで出場時間が無い中でコンディション良く無さそうに見えたので心配である。

  • 好ゲームだった。シンプルに面白かったし、町田のプレスをかいくぐる新潟のクレバーさとチャレンジ精神が少しずつ強まっていく流れは胸が熱くなるものがある。

  • 町田は保持攻撃の改善に取り組むよりも今のやり方を徹底する方向に進みそう。その方がコスパやタイパが高いし、こういう展開の試合よりも今の強みを押し付けられる試合の方が多そう。
    ただ、持たされたとしてもガンガンオセフンにクロスを上げる、という選択肢も取れる中であえて取らなかった理由はちょっと知りたい。新潟のCBに勝てるイメージが湧かなかったのか、体力的な問題か。

  • 攻撃が膠着したときに変化を付けられる平河柴戸はもう色んなものを背負ってる感じがする。あと望月は真ん中でも良い仕事が出来そうだし、カンフル剤として今後スタメン抜擢もありそうなぐらいポテンシャル高い。


という感じでした。両者過去の試合をたくさん見たわけではないので把握できているか不安ですが、だからこそ忌憚なく書けるだろうと思って書きました。

町田は言動と小細工がヘイトを買いがちですがサッカーの中身自体はわりとストロングスタイル、で個人的にはボールを持つかどうかよりもチームとして意志が連動しているかどうかが好みなので割と好きな部類です。だからこそこの試合では相当苦しいんだろうなと。役割や判断が整理されているのが町田の強みという中で、ボールを持たされたときどうするか、今後解決されるのを見てみたい。

新潟は序盤こそ割り切って、かつある程度想定した形でロングボールによる陣地回復からの撤退守備という町田の強みに対するカウンタープレイで牽制。そこからボールを握り、自分たちの試合に持って行く運びは強者の顔つきだったように思います。
ボールを奪われてピンチになったシーンもいくつかありましたが、変わらず挑み成功させる姿勢があるからこそ、このスタイルに対するサポーターの愛が根付いたんだなあという。
あとポゼッションってパスに目が行きますが、保持者がプレスの予測を常にちょっとでも外そうと細かい工夫をしているのが偉いなと。ファーストタッチの方向を変えてプレスを止めたり、大きめに運ぶことでパスコースを作り出したり。

MVPは小見、影のMVPはトーマスデンとしてこの記事を終わろうと思います。

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